放射線治療「サイバーナイフ」
神経や血管、組織が密集している頭や顔、首(頭頸部:とうけいぶ)の手術は、できるだけ避けたいものです。患者には、手術に耐えるだけの体力がない高齢者らも多いです。その点、メスを使わない放射線治療なら患者の体の負担が少ないです。ただし、通常の放射線は照射範囲が広く、微細な部位には使えないです。そこで、精密に照射できる最新鋭器「サイバーナイフ」が、放射線治療の新たな可能性を広げています。
サイバーナイフの仕組みはこうです。あらかじめ作成した画像に2方向から撮影したエックス線画像を重ね合わせて病巣を正確にとらえます。これを基に、6か所の関節を持つクレーンのようなロボットアームが、患者の体の微妙な動きに即応して位置を自在に変えながら、アーム先端の小型リニアック(直線加速器)から放射線を照射します。
リニアックは患者の頭頸部の周囲100か所のポイントから各12方向に照射します。最大1200本の放射線を病巣の形状に合わせて、方向と強さを変えて照射し、体が大きく動くと中断して誤射を防ぎます。
サイバーナイフは1992年、アメリカで開発されました。ロボットアームの動きは、巡航ミサイルが動く標的を追跡して撃ち落とす軍事技術が応用されており、照射の誤差は1ミリ以内と精度が高いです。メスのような鋭い切れ味の「電脳ナイフ」が名前の由来です。
従来、脳神経外科の放射線治療には、ガンマ線を照射する「ガンマナイフ」が多用されてきました。サイバーナイフと比較しても効果に違いはありませんが、ガンマナイフは重い金属フレームを患者の頭がい骨にねじで固定するため、痛みが多少あります。治療できるのは基本的に頭がい骨内にある3センチ以下の病巣に限られています。
これに対しサイバーナイフは、メッシュ状の固定用マスクをはめるだけです。何日にも分けて広い範囲に照射し、大きな病巣も治療できます。「針の穴に糸を通す」精度で、ガンマナイフでは治療できない頭がい底や頸部、脊髄(せきずい)の周辺、眼球と眼球の間など、頭がい骨の外にある病巣でも治療できます。
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サイバーナイフの治療対象
頭頸部腫瘍のほか、くも膜下出血を引き起こす動静脈奇形や三叉(さんさ)神経痛なども治療できます。
治療は麻酔をせずに約1時間で、照射後に吐き気、発熱などが起こることがありますが、数日で治まります。叉神経痛などを除く、多くの疾患で健康保険が使え、治療費の自已負担は通常、3割となります。
関東脳神経外科病院サイバーナイフセンター長の井上洋(いのうえひろし)さん(群馬県藤岡市・神経機構研究所長)は「放射線を病巣に集中させるピンポイントの照射ができるので、頭頸部に最適ですが、今後、肺がんや乳がんなどにも広がるでしょう」と話しています。
ただサイバーナイフ装置は1台数億円と高価で、目下、全国で14施設にあるのみです。
ガンマナイフ
ガンマナイフは1968年、スウェーデンで開発された放射線治療装置です。
国内には1990年に初めて導入された。コバルト60を放射線源にして、頭部を覆うヘルメット型コリメーターの201個の穴からガンマ線を放射します。虫眼鏡で光を一点に集中する要領で、病巣を焼き切ります。
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主な設置施設は「三叉神経痛のガンマナイフ治療」に掲載
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