認知症の治療ガイド

-顔面神経まひの「筋肉移植」治療-

顔面神経まひの「筋肉移植」治療

顔面神経まひの原因

顔面には、顔を動かす筋肉「表情筋」が片側だけで約20個あります。これらをつかさどる顔面神経がまひを起こすと、笑えないだけでなく、まぶたを閉じることもできず、口もすぼめられないといった問題が生じます。

顔面神経まひの7割は、単純ヘルペスウイルスや帯状庖疹(たいじょうほうしん)ウイルスの感染で起きます。多くは抗ウイルス薬などで治るが、まひが残ってしまう場合もある。

残りの3割は、先天的なまひや外傷、脳卒中の後遺症、手術などで顔面神経が切れたことで起き、薬では治らない。

神経をつなぐ手術を行うこともありますが、まひが1年以上続くと、神経を修復しても筋肉が委縮しているため、機能の回復は難しくなります。


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筋肉移植による再建法

まひで失った「笑い」を取り戻すのが、筋肉移植による再建法です。顕微鏡を見ながら直径1ミリほどの血管や神経を縫う高度な技術「マイクロサージャリー」が使われます。

この手術は1972年、当時東大にいた杏林大形成外科教授の波利井清紀(はりいきよのり)さんが世界で初めて成功して、今では実施する大学病院も増えてきています。

「1期的再建」と「2期的再建」

まず、脚のひざ下にある神経を約15センチ切り取ります。右顔面にまひがある場合、健康な左ほおの耳の近くを1センチ切開して、脚の神経を挿入し、上唇の中を横切って右ほおまで通します。

切開した部分の顔面神経と脚の神経を縫合し片方の端は右ほおの皮膚に固定すします。これだけで神経の働きが戻るわけではありません。縫合から2,3か月ほどたつと、トンネルのような神経の中を、筋肉を動かす信号を伝える神経繊維が、1日に0.3~0.5ミリずつ伸び始めます。

まひした右ほおまで神経繊維が伸びた約1年後、今度は太ももの内側の筋肉を切除して右ほおに移植、それぞれの神経と血管をつなぎます。

その約10か月後には、健康な左側の顔面神経の働きが伝わることで右側の表情筋も動き、ほぼ左右対称な笑顔が作れる、という仕組みです。

ただ、この方法だと2回の手術が必要となり、完治まで約2年かかります。そこで波利井さんが注目したのが、わきの下から背中にかけて広がる「広背筋」です。長い神経も一緒に採取できるため、この筋肉を移植に使えば1回の手術で済みます。手術後8~10か月で、表情筋が動き出すといいます。広背筋ではなく、おなかや太ももの後ろ側の筋肉を使う医師もいます。

手術を2回に分けて行う前者の方法を「2期的再建」、1回で済む後者を「1期的再建」と呼びます。波利井さんはこれらの再建手術を約500例実施しています。1995年からは1期的再建がほとんどで、手術を受けた234人を分析した結果、約8割は「満足な笑い」になっていました。いずれの手術にも健康保険が適用されます。

波利井さんは「この手術は、まひが現れて何年たっても受けられます」と話しています。


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関係医療機関

杏林大形成外科

東大病院


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